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2015.11.09『まるごと日本のことばと文化』ミニ解説 その3『まるごと』と異文化理解

全3回でお届けしている来嶋先生の『まるごと』ミニ解説。最終回のテーマは「異文化理解学習」についてです。

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『まるごと』ミニ解説もいよいよ3回目になりました。1回目は『まるごと』と文型2回目はCan-doについて、そして、この最終回では異文化理解学習についてお話しします。
『まるごと』が最終的に目指している開発理念は「相互理解」。それは、「自分とは違うだれか」の存在を認め、理解し、人間関係を育むことでもあります。この「相互理解のための日本語」を学ぶ上で、「異文化理解能力」(文化)は「課題遂行能力」(ことば)と並ぶ重要な柱です。『まるごと』では、文化とことばを切り離すことなく、入門(A1)の段階から両方を学習していくのです。

『まるごと』で学ぶ日本の文化
『まるごと』は入門〜初中級の全編を通して、日本の日常的な生活文化を取り上げています。「かつどう」では各トピックの「生活と文化」というページで、様々な日本の光景を、写真を多用して紹介しています。例えば入門のトピック3(食べ物)では「ファーストフードの店」をテーマに、回転寿司や立ち食いそばなど5種類の店の写真を提示しているのですが、ここで大事なことは、「日本にはこんなものがありますよ」「日本ではこうしますよ」と表面的に伝えるだけではなく、その理由も一緒に考えてみる、ということです。なぜ日本には立ち食いそばの店があるのか、もしそれを変だと感じたのなら、なぜそう感じたのか、自分の国には立ったまま食べる店があるだろうかなど、写真を通していろいろなことを考えましょう。
これは米国のNational Standardsで提唱されている3つのP(Product, Practices, Perspectives)を重視した異文化理解学習にも通じるものだと思います。
さて、こうして自分なりに考えたら、今度はそれをクラスメイトと話し合います。同じ写真を見たからと言って、ほかの人も同じように感じるとは限りません。他者とのやりとりは、多様な考え方を受け入れる態度を養う上でとても重要なプロセスです。

異文化理解学習においては、学習者が内容を正しく理解し、自由に意見が言えるようにすることが大切なので、条件が整わない場合は別として、写真の説明やクラスでの話し合いには母語を使うほうが望ましいと考えています。

教室の外で
『まるごと』の異文化理解学習でもう一つ大事なことがあります。授業をきっかけに興味を持ったことがあれば、教室外でも自分で学習を深めてほしいのです。先の例なら、自分がよく行くエリアにお店があったら、回転寿司を食べに行ってみるとか、立ち食いそばについて身近にいる日本人に聞いてみるなど、実際に行動に移してみること。また、ウェブサイト(母語のサイトでOK)で調べてみるなど、無理なくできることをぜひ実行してほしいのです。

教科書の写真だけでは日本の生活文化のごく一部しか見せられません。多様性を知るためにも、この「もう一歩」がほしいところです。そして、このような活動を写真やジャーナルなどの記録に残し、ポートフォリオ(学習を自己管理するためのツール)に保存しておきます。クラスメイトと情報交換するときや、自分の経験を日本語で話すときに、ポートフォリオがあるととても便利で、役に立ちますよ。

おわりに
『まるごと』「かつどう」編の「生活と文化」のページについてご紹介しましたが、「りかい」編(初級1〜初中級)では言語使用の背後にある価値観について考えるために「ことばと文化」というコーナーを設けました。これ以外にも『まるごと』には、教科書全体として写真、イラスト、会話の場面や内容にまで異文化理解学習の素材が豊富にちりばめられています。『まるごと』を使う教師の役割とは、これらを活用しながら、毎回の授業で学習者に働きかけていくことだと思っています。
ご承知のように、米国のNational Standardsでは5つのC(Communication, Culture, Connection, Comparison, Community)によって外国語教育の方向性が示されていますが、これを日本語学習にあてはめると次のようになります。
 ●日本語でコミュニケーションを行う
 ●日本文化を理解する
 ●ほかの教科内容に関連付け情報を得る
 ●日本語と母語を比較して言語と文化への洞察力を養う
 ●国内・国外において日本語を使う文化・社会に参加する

『まるごと』の日本語と異文化理解の学習は、これらを満たすことができるだろうと思っています。みなさんは、どのようなご感想をお持ちでしょうか。

ご意見、ご質問など、ACTFLの会場で、みなさんと直接言葉が交わせることを、心から楽しみにしています。
それでは、サンディエゴの会場でお会いしましょう!

<参考文献>
『21世紀の外国語学習スタンダーズ』日本語版(国際交流基金日本語国際センター)
http://www.jpf.go.jp/j/project/japanese/survey/area/country/syllabus/sy_tra.html
国際交流基金(2010)「日本語教授法シリーズ11日本事情・日本文化を教える」

来嶋洋美(国際交流基金日本語国際センター)


ACTFL Exhibitor Workshop
Understanding and Respecting other Cultures: Japanese Course Book Marugoto
講演者:来嶋洋美/Hiromi Kijima(国際交流基金/Japan Foundation)
協賛:アメリカ紀伊國屋書店/Kinokuniya、JPTアメリカ/JPT
日時:2015年11月21日(Sat.) 3:30 PM – 4:20 PM
会場:San Diego Convention Center
Room: Workshop Room #3, Exhibit Hall B-C